インバウンドガイド日記 vol.23『サービスの受け上手~「お客様は神様」の本当の意味~』

インバウンドガイド日記 vol.23『サービスの受け上手~「お客様は神様」の本当の意味~』

2025年06月25日 10時34分

年々増加傾向にあるインバウンド観光客。
皆さんも街中で訪日外国人を見かける機会はありませんか?

日本人同士の気持ちはわかるけれど、世界各国の人の常識や思いを理解することはなかなか難しいですよね。
そこで、日々インバウンドとともに日本を旅する’全国通訳案内士’が実際にあった体験をもとにお話しします。

接客・接遇の仕事を通じて、長年にわたり、日本人・外国人を問わず、さまざまなお客様に接してきました。

その中でも、現在、主にご案内している欧米からの訪日客の方々には、「スマートなサービスの受け方」や「サービス提供者との関係を大切にする姿勢」に、いつも感心させられています。

サービスに対してお金を払う立場であっても、皆さま、必ず感謝の言葉を伝えてくださいます。

“Thank you!” だけでなく、日本語の「ありがとう」や「ありがとうございます」を覚えて、積極的に使おうとされる方もとても多いです。

ツアー中、水やコーヒー、お菓子などを購入される際に、「あなたもどう?」「遠慮しないでね!」と、案内役の私にまで気さくに勧めてくださる方がたくさんいらっしゃいます。

そんな時、私は感謝の気持ちを込めてこうお答えしています。

Thank you so much! You’re very kind.
ご親切に、本当にありがとうございます!

I’m fine, thank you! That’s very kind of you to ask.
私は大丈夫です。お気遣いありがとうございます!

Well then, I’ll take you up on that. Thanks a lot!
それでは、お言葉に甘えさせていただきます。ありがとうございます!
※ “take someone up on something” は「申し出を受け入れる」という意味で、日常会話でもよく使われるカジュアルかつ丁寧な表現です。

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ある日のお客様は、自販機でご家族の分の水を買ったあと、ふと立ち止まり、「わっ、あなたの分、聞くのを忘れちゃった!本当に恥ずかしいわ…」と、まるで穴があったら入りたいかのような表情でおっしゃっていました。

また、私が「お手洗いに寄られますか?」とおたずねした際、ご自身は不要でも「私はいいけど、あなたは大丈夫?」と気遣ってくださる方も多いです。

そんな時は、こんな風にお答えしたりしています。

I’m okay too, thank you for asking!
私も大丈夫です。お気遣いありがとうございます!

Would you mind if I quickly used the restroom? Please feel free to browse the souvenirs while I’m gone.
ちょっと化粧室に行ってきてもいいですか?その間、よろしければお土産をご覧になっていてくださいね。
(もちろん、お客様の時間を無駄にしないよう最大限配慮しています!)

箱根など、東京を離れた場所でのツアーでは、お客様の思いやりがいっそう感じられます。

ツアー後、私がそのまま東京に戻ると伝えると、帰り道を心配してくださったり、翌日の予定まで気にかけてくださるのです。

もちろん、プライベートガイドを雇われるような方々ですから、サービスへの期待は高いです。

それでも、「お金を払っているからどんな要求でも通る」といった態度の方に出会ったことはありません。

むしろ、「理不尽な要求をするような恥ずかしい人間にはなりたくない」と自然に思っていらっしゃる方が多いように感じます。

日本では長く「お客様は神様です」という考えが根づいてきましたが、その延長で、近年「カスハラ(カスタマーハラスメント)」が問題視されることもあります。

しかしその一方で、「ありがとうございました」「ごちそうさまでした」と、自然に笑顔で伝える日本人の姿も増えてきたように感じます。

サービスを提供する側は、自分を犠牲にしすぎることなく、お客様の満足のために努めること。
サービスを受ける側は、提供者を思いやる心を持つこと。
そんな相互の気遣いがあれば、ここ日本でも、より気持ちのよい関係が築けるのではないかと感じています。

お客様から学ばせていただく毎日に、心から感謝しています。

ちなみに、「お客様は神様です」という言葉について、三波春夫さんは生前、「喜んでいただくことが真意」であり、「傲慢な態度を正当化するものではない」と語っていらしたそうです。

(左)人気パンケーキ店にて。お客様が早朝から整理券を取り、私まで招待してくださいました…幸せです!
(右)お客様のお買い物中、何気なく試着していたら、「あなたに似合うから!」とプレゼントしてくださいました…嬉泣

記事執筆者
田口 倫子(たぐち のりこ)

全国通訳案内士(英語)
観光庁「地域の観光人材のインバウンド対応能力強化研修」1級講師
観光庁「世界水準のDMO形成促進事業」外部専門人材
元JAL国際線キャビンアテンダント

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