インバウンドガイド日記 vol.09『イチローさん~不完全さを愛でる~』
2025年01月29日 8時00分
年々増加傾向にあるインバウンド観光客。
皆さんも街中で訪日外国人を見かける機会はありませんか?
日本人同士の気持ちはわかるけれど、世界各国の人の常識や思いを理解することはなかなか難しいですよね。
そこで、日々インバウンドとともに日本を旅する’全国通訳案内士’が実際にあった体験をもとにお話しします。
米大リーグ(MLB)のマリナーズなどで大活躍し、日米通算4367安打を誇るイチロー氏。
有資格初年度で日米同時に殿堂入りする快挙を成し遂げましたね!
MLBでは日本人初、さらにはアジア人初の殿堂入り。
投票された394票のうち393票を獲得し、得票率はなんと99.7%でしたが、期待されたMLB史上2人目、さらには野手史上初の「満票」での殿堂入りには、わずか1票及びませんでした。
野球やイチロー氏に特別な思い入れがあるわけではありませんが、同氏の超人的な活躍を見てきた一般的な日本人のひとりとして、「あぁ、1票足りなかったのか、残念だったなぁ」という気持ちでネットニュースを読み進めました。
そして次の瞬間、「か、かっこいぃぃー!!」と口に出してつぶやいてしまいました。笑
「1票足りないというのは、凄く良かった」
「いろんなことが足りない。人って。自分なりの完璧を追い求めて進んでいくのが人生だと思う」
「不完全であるのはいいな」
そんなことをおっしゃったんですよね、イチロー氏。
もちろん、とんでもなく注目されている場でのコメントですので、これらの言葉が100%本音かどうかは、ご本人でない限りわかりません。 でも、その後、動画でも拝見し、清々しい表情や他の内容からも、私は言葉通り素直に受け取らせていただきました。
今日のひとこと
そして、日頃、外国人のお客様にお話しすることのある、日本人が持つ「不完全さ(imperfection)を愛でる」美学が、思い起こされました。
日本人が持ち合わせているといわれる、この独特な美学・美意識をお伝えするとき、いわゆる「詫び寂び(わびさび)」を絡めてご説明したりもしています。
In Japan, there is a unique appreciation for imperfection, tied to the aesthetics of wabi-sabi.
日本では、「不完全さを愛でる」独特の美意識があり、これは「侘び寂び」の美学と深く結びついています。
While both value simplicity and transience, wabi focuses on rustic beauty and quietness, while sabi highlights the elegance of aging and impermanence.
どちらも簡素さと儚さを尊びますが、「侘び」は素朴な美しさと静けさを重視し、「寂び」は古びたもの(老い)と無常の優雅さを際立たせます。
For example, a handmade tea bowl with an uneven glaze or a weathered wooden gate may seem imperfect but carries deep character.
たとえば、釉薬がむらになった手作りの茶碗や、古びた木製の門は、一見不完全ですが深い味わいがあります。
Wabi-sabi encourages us to embrace flaws rather than hide them, finding beauty in the natural flow of time and life.
「侘び寂び」は欠点を隠すのではなく、むしろ受け入れ、時間や人生の自然な流れの中に美を見出すことを教えてくれます。
This philosophy is seen in Japanese art, tea ceremonies, and daily life, teaching us to slow down and find peace in simplicity and imperfection.
この考え方は、日本の芸術や茶道、日常生活に息づき、ゆったりとした時間を過ごし、シンプルさと不完全さの中に安らぎを見出す大切さを私たちに教えてくれるのです。
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イチロー氏の場合、「不完全さ」に今後の伸びしろを見出されていると拝察しますが、日本人特有の「不完全さを愛でる」美学が土台にあって、あのような考えに至られたのではと勝手に想像しています。
「今やっていることへの称賛ではなく、過去への称賛なので、あくまでも今をどう生きるかということを僕は考えていきたい」
「これがゴールとも捉えられるが、殿堂入りの先輩たちに近づけるかもしれないという意味では、これからがスタートとも考えている」
投票しなかった1人の記者に対する、「自宅に招待して一緒にお酒を飲みたいので、名乗り出て、シアトルまでお越しください」という「イチ流」の冗談も素敵でしたが、とてつもなく大きな功績を残したにもかかわらず、あくまで今、そして未来を見据えている姿勢には本当に痺れました。
そして、しがない一プライベートガイドの私の日常はといいますと、、今回のような「不完全さを愛でる」、「詫び寂び」といったやや硬めのお話のときも、「なので、老いてシミやしわがどんどん増えていっても、そこに美しさを感じてもらえる国に生まれて私はとてもラッキーなんです」と、ニヤリ顔で締めくくり、お客様の笑いを引き起こせたときに小さな喜びを感じたりしています。笑
あ、もちろん、お相手と場面は慎重に見極めるようにしていますので、どうぞご心配なくお願いいたします。笑笑
記事執筆者
田口 倫子(たぐち のりこ)
全国通訳案内士(英語)
観光庁「地域の観光人材のインバウンド対応能力強化研修」1級講師
観光庁「世界水準のDMO形成促進事業」外部専門人材
元JAL国際線キャビンアテンダント