インバウンドガイド日記 vol.03『ズボン~最近あまり言わなくなりましたね~』

インバウンドガイド日記 vol.03『ズボン~最近あまり言わなくなりましたね~』

2024年12月18日 8時27分

年々増加傾向にあるインバウンド観光客。
皆さんも街中で訪日外国人を見かける機会はありませんか?

日本人同士の気持ちはわかるけれど、世界各国の人の常識や思いを理解することはなかなか難しいですよね。
そこで、日々インバウンドとともに日本を旅する’全国通訳案内士’が実際にあった体験をもとにお話しします。

今や東京で外国人を見かけない日はありません。地元民しか通らないような路地裏や、ネットでも見つけ出すことが難しいような隠れ家的レストランにも外国人がいらして、ひと昔前では信じられないような日常です。皆様のお住まいの地域はいかがでしょうか?

「インバウンド」という言葉もすっかりお馴染みとなり、日常的にメディアやネットで取り上げられています。かくいうこのブログのタイトルでも使わせていただいています。笑

インバウンドに慣れ始めてきた現在、特に外国人を接客、接遇されていて、一歩先に進みたいと思っていらっしゃる方にぜひ気にしていただきたいことがあります。

対応に慣れてきたことで、ついつい「外国人は〇〇〇だから、、、」や「インバウンドって〇〇〇だよね」と、”ひと塊”でとらえてしまっていないでしょうか?

私たち日本人が一人ひとり性格や好みが違うように、当然、外国人も人それぞれ異なります。

英語(や他の外国語)でひと通りのやり取りに慣れてきた皆様には、”ひと塊”の先、いえ、奥を観察していただきたいと思います。

「このお客様は言葉ではこうおっしゃっているけれど、表情はそれに合ってないような気がする」や、「何もおっしゃらないけれども、それは満足されているのではなくて、日本語も英語も使えず伝えられないだけかもしれない」というように、目の前にある状況だけでなく、あらゆる可能性を考えると言い換えたらいいかもしれません。

接客、接遇のプロの皆様の場合、日本人のお客様へは日常的にされていることに違いありません。

ですが、外国語というツールを用いることで、つい伝えることのみに集中し過ぎていないか、今一度思い返していただくとよいのではと思うのです。

「外国人一人ひとりの状況を慮るということだよね、ハードルが高すぎるよ!」と思われる方は、まずは、外国人>「英語圏」と「非英語圏」の方々>英語圏(「英米豪」と「その他の国」の方々)と 非英語圏(「英語が得意な国の方々」と「日常的に英語を使わない国の方々」)などと細分化して、少しずつ個人に落としていってもいいかもしれません。(実際の現場はそんなロジック通りにはいかないと思いますので、あくまで大枠のイメージです)

英語圏にまつわる話でいうと、多くの日本人はアメリカ英語(米語)で教育を受けてきたと思いますので、「米語=英語」が一般的ではないでしょうか。

ですが、英語圏でもアメリカ以外の国の方々とお話ししてみると、発音だけでなく、英単語や表現自体もまったく異なったりすることにお気づきになると思います。

日本国内でも、いわゆる標準語と関西弁では大きく異なりますし、関西弁とひとくくりに言っても各地域で異なる訳ですから、想像に難くないですよね。

私は日系航空会社にいた約10年間の最終3年間、同社のロンドン基地に駐在する形で客室乗務員をしていました。

そこでは、イギリス人だけでなく欧州約20ヶ国から集まった約200名と日本人8名のみが所属している状況だったため、基本的にはイギリス英語で、(私たちと同じく)英語が第二言語である欧州のメンバーとコミュニケーションをとる日常でした。

(ちなみに英語をマスターするには、間違いを恐れずとにかく話すことが大事!のマインドに切り替えられたのはこの時の経験がきっかけです)

アメリカ英語とイギリス英語の違いでは、アメリカの “soccer”(サッカー)と、イギリスの “football”(フットボール)がよく知られていますよね。

ご存知とは思いますが、アメリカで “football” は「アメリカンフットボール」を指します。

「地下鉄」はアメリカでは “subway”、イギリスでは “underground” もしくは “tube”(特にロンドンでは ”tube”)と呼ぶことも広く認知されているでしょう。

subway” と聞くと、アメリカ発祥の某サンドイッチチェーン店を想像してしまうイギリス人が多いのも本当の話です。

他にも例えば、日本でいう「ズボン」は、アメリカでは “pants” ですが、イギリスでは “trousers”(トラウザーズ)ということなどは、私は渡英するまで知りませんでした。

(そして今まで知らなかった「日本語」シリーズでいうと、「ズボン」の語は、フランス語で「ペチコート」の意味の “jupon” から来ている説や、穿くときにする音の擬音「ズボン」からできたという説があるものの、正確な由来は分かっていないそうです。また、日本での当て字は「洋袴」とのこと!)


今日のひとこと

このように同じ英語でも国や地域によって異なる表現をする場合があります。
もし外国人のお客様が伝えている物が理解できない時は、「その物の画像を見せていただけますか?」と伝えて、スマホなどで見せていただいてはいかがでしょうか。
文頭に “I’m sorry” とつけたり、”Can you ~” ではなく ”Could you ~” と丁寧にお伺いすれば失礼には当たらないでしょう。

I’m sorry, I don’t quite understand. Could you please show me the picture?
すみません、(おっしゃっている物が)わからないので、その画像を見せていただけますか?

昨年、イギリスの人気オーディション番組で、とにかく明るい安村(Tonikaku/TONY)さんが、
Don’t worry, I’m wearing….”(安心してください、はいてますよ)
と叫んだところ、審査員たちが、この英文で他動詞 wear の後に入れるべき目的語を足すため、”Pants!”(パーンツ!)と明るく応えてくれ、大爆笑を巻き起こしました。

今年、アメリカの同番組でも観客が徐々に ”Pants!” と応えてくれて、最終的には大ウケしていましたが、最初は少し微妙な雰囲気に見えました。

このネタをアメリカで先に見せていたら、あの掛け合いは生まれていなかったように思います。

さすが Tonikaku さん、持っていますね!

(アメリカ英語で男性用下着の「パンツ」を指す場合は通常、”underwear” や “briefs” を使います)

記事執筆者
田口 倫子(たぐち のりこ)

全国通訳案内士(英語)
観光庁「地域の観光人材のインバウンド対応能力強化研修」1級講師
観光庁「世界水準のDMO形成促進事業」外部専門人材
元JAL国際線キャビンアテンダント

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