インバウンドガイド日記 vol.10『小さなお客様~意見を表現する~』

インバウンドガイド日記 vol.10『小さなお客様~意見を表現する~』

2025年02月05日 8時00分

年々増加傾向にあるインバウンド観光客。
皆さんも街中で訪日外国人を見かける機会はありませんか?

日本人同士の気持ちはわかるけれど、世界各国の人の常識や思いを理解することはなかなか難しいですよね。
そこで、日々インバウンドとともに日本を旅する’全国通訳案内士’が実際にあった体験をもとにお話しします。

昨年は年間150日ほど、外国人のお客様をご案内させていただきました。

インバウンド活況の昨今とはいえ、季節によってまだ繁閑の差があることもあり、専業でガイドをされている方でも、年間100日稼働するとかなり多いとみなされています。

私はプライベートガイドを生業としつつ、英語教材制作などのデスクワークのお仕事も同程度がっつりと行っていますので、元気によく働いたなと我ながら思います。笑

そして何より、そうして多くの機会に恵まれたのは、数ある国の中から日本を選び、遠路はるばるお越しくださったお客様の皆様と、私を信頼し任せてくださるご依頼元の方々のおかげと心から深く感謝しています。

ところで、年間150日ということは、(ご夫婦やご家族をご案内する機会が多いため)仮に1日3名のお客様だとしたら、
年間延べ450名の外国人の方とお会いしたことになります

「そんなに多くの人と会っていたら、過去にガイドしたお客様のことなんて覚えてないでしょ?」と聞かれることがあります。

ですが驚くことに、お客様から後日お礼のご連絡などをいただいた際、お名前だけではすぐに思い出せなくても(同じお名前のお客様も多いんです!)、ご案内した日にちや巡った場所を確認してみると、パーッと鮮やかにその日の光景や交わした会話などが思い出されるのです。

また、それだけ多くの海外の方々と触れ合っていると、当然、私たち日本人との相違点を実感します。

「あぁ、こういう点は洋の東西を問わないんだなぁ、おもしろいな」とか、
反対に「その発想や習慣は私たちにはまったくないなぁ、勉強になるな」といったことを日々感じています。

(なお、いつもお伝えさせていただいているように、日本人と同様に、海外の方々もおひとりおひとり性格が異なるので、以下、ひとつの傾向としてお読みいただけると幸いです)

小学校に上がる前の小さなお子様のいるご家族をご案内する機会も数多くあります。

ツアー中、多くのお子様たちは
「私は今日最初に行った〇〇〇が一番好き!にぎやかな雰囲気がとても気に入ったの」、
「僕は今日のランチで〇〇〇が一番美味しいと思った!デザートの△△△は僕の国の□□□と×××といった部分が似てると思う」
というように、自分の好みや視点をしっかりと伝えてくれます。

ご両親や私が、彼ら彼女らに感想や意見を言うように促したわけでもないのに、です。

旅先での経験だけでなく、好きな色やお菓子、動物、キャラクター、アクセサリーなどについても(子供らしく可愛らしい内容ですが、、笑)、しっかりと自分の意見が確立していて、例えばお父様の意見を真っ向から否定するような場合も、それを堂々と表現します。

上のお兄ちゃんお姉ちゃんたちも含めて、ご家族全員が皆それぞれ異なった意見を持っていて、お食事中や移動中の車内などで、ああでもないこうでもないとディスカッションを楽しまれるのです。

それこそ、昨晩のディナーのメニューの中で何が一番気に入ったのか、それはなぜなのかといった、ごく些細なテーマであっても、大人も子供も喧々諤々、(楽しそうに)真剣に討論します。

(典型的な日本人である)私も、あらゆる物事にもちろん好き嫌いはありますが、小さい頃、例えば前日の外食の内容について、後日、家族で深く掘り下げて会話を楽しんだような記憶はありません。

というより、大人になってからでさえ、家族や友人との間で討論のような会話をする機会はそれほど多くないように思います。

プライベートガイドになりたての頃は、今日のご家族がたまたまそうなのかなと思ったりもしましたが、多くのお客様がそういったご様子であることに気づいてからは、(一般的な)私たち日本人との違いをとても興味深く感じています。

アメリカの小学校などでは、”Everybody is different”(人それぞれ違う)という教育が根付いていて、子供たちは「それぞれが個性的な存在である」ということを小さい頃から徹底的に教え込まれていると聞きます。

「自分の個性が何なのか」を表現する訓練を行い、あらゆる機会に「あなたはどう思うのか」と問うのが、アメリカの教育のようです。

たしかに、私がお客様に日本の事象についてお話しするときも、一般的なご説明の後、その内容に対して「(お客様にとっては日本人代表である)私自身はどう思うのか」「(建前はそうだとしても)正直なところ私自身はどう感じているのか」といったことをお伝えしたときが最も喜ばれているように感じます。

(私を含め)多くの日本人は意見を持ったり、その意見を表明することが苦手なように思います。

日本的な教育において、幼少のころからそれぞれ意見を持ったり、それを表現する訓練の機会が著しく少ないことは、ひとつの原因として考えられるのではないでしょうか。

また、よく言われることと思いますが、農耕民族として周囲と強調することが重んじられ、「和をもって貴しとなす」の精神を美徳としてきたことも大きく影響しているに違いありません。

古来から日本人が重んじる「協調性」を、私はとても尊い美徳だと思っています。

ですので、決して海外の教育や文化が素晴らしくて、日本がそうではないとお伝えしたい訳ではありません。

このグローバル社会において、日本人としての良さを誇りに思い、それを充分に活かしつつ、外国の方と接してみて「素敵だな」と感じた点があれば、エッセンスとして素直に取り入れていけばいいのではないかと思うのです。


今日のひとこと

以下の表現は日常生活ではもちろんのこと、外国人を接客・接遇する際、自分の意見を柔らかく丁寧に表現したいときに便利に使えるでしょう。

Personally, I really like 〇〇〇 because △△△.
個人的には〇〇〇が好きです。なぜなら△△△だからです。

That’s the traditional way, but nowadays, I feel that 〇〇〇.
それが伝統的な方法ですが、最近では〇〇〇だと感じます。

It depends on the person, but in my case, 〇〇〇.
人によりますが、私の場合は〇〇〇です。

Of course, it’s up to you, but I personally prefer 〇〇〇.
もちろんあなた(お客様)次第ですが、私は〇〇〇のほうが好きです。

※it’s up to は、相手に選択を委ねるフレーズのため、you とセットで使われることが多いですが、その後の内容によって、the schedule(スケジュール)、the availability(空き状況・利用可能性)、your taste(お好み)なども併せて使うことができます。

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周囲との調和をまず考える、日本人らしい奥ゆかしさが私は大好きです。
でも、同調圧力(peer pressure)によって、そもそも考えることを放棄したり、伝えるべき意見を表すことを諦めたくはないなと思うのです。

That’s something I’ve learned from my experiences as a guide.
それはガイドとしての経験から学んだことでもあります。

What do you think? I’d love to hear your thoughts!
皆さんはいかが思われますか?ぜひお考えをお聞かせください。

絵馬にお願いごとを書く姉弟。お友達と家族と自分の健康と幸せを、そして将来お金を沢山稼げるようにと祈っていました。笑

東京は小さなお子様たちにとって、おとぎの国に映っているようです。大きくなったらお友達と、そしていつの日かご両親を招待してまた来てね!

記事執筆者
田口 倫子(たぐち のりこ)

全国通訳案内士(英語)
観光庁「地域の観光人材のインバウンド対応能力強化研修」1級講師
観光庁「世界水準のDMO形成促進事業」外部専門人材
元JAL国際線キャビンアテンダント

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