インバウンドガイド日記 vol.08『間(ま)~一拍置く~』

インバウンドガイド日記 vol.08『間(ま)~一拍置く~』

2025年01月22日 8時00分

年々増加傾向にあるインバウンド観光客。
皆さんも街中で訪日外国人を見かける機会はありませんか?

日本人同士の気持ちはわかるけれど、世界各国の人の常識や思いを理解することはなかなか難しいですよね。
そこで、日々インバウンドとともに日本を旅する’全国通訳案内士’が実際にあった体験をもとにお話しします。

フル稼働した春夏秋を無事に乗り切り、比較的余裕ができたので、先日、骨休めの温泉旅行に行ってきました。

日頃、お客様の旅を演出させていただくお仕事をしていますが、自身の旅行は本当に久しぶりでした。

地元のガイドさんに案内していただく機会はありませんでしたが、旅をすること自体、お客様の目線に立つことができ、プライベートガイドとしてとても勉強になります。

図らずも完全スイッチオフのゆるゆるモードになってしまいましたが笑、そんな状態でも、様々な気づきを得ることができました。

気づきのひとつが「間(ま)」の大切さです。

今回、とても素敵なお宿に泊まらせていただきました。

旅に出る時間はなかなか取れないので、予算は度外視できないものの、お宿はしっかりとこだわりたく、業界人の端くれの嗅覚?を信じて、ここなら間違いないだろうというお宿を探し出しました。

街の喧騒から離れ、大型の豪華旅館といった趣ではなく、こじんまりとしていて知る人ぞ知るといった雰囲気で、こだわりぬいた地元の食材を用いた美味しいお料理が提供され、スタッフの方々の心遣いが感じられるお宿、、、をイメージして予約しましたが、想像通り、いえ、想像以上に居心地の良いお宿でした。

(ですので、以下、決してお宿を批判したい訳ではないことをご理解いただけますと幸いです)

滞在をたっぷりと楽しみ、あとはチェックアウトをするだけ、となったとき、私はその土地のシンボルである日帰り温泉施設について、女将に尋ねました。

「この後、〇〇〇(日帰り温泉施設)に行こうと思うのですが、気を付けることや持っていった方がいいものなどはありますか?」

女将は少し考えた後、「いいえ、特にありません。お気をつけていってらっしゃいませ」と笑顔で答えてくださいました。

それを聞いて安心した私は、「そうですか、ありがとうございます!」とお礼を言おうとしましたが、女将はその言葉を聞くことなく、「当館のお湯はご満足いただけましたか?」と不安そうにかぶせて尋ねていらしたのです。

女将の表情を見て、「あぁ、飛行機で帰る最終日、チェックアウト後にわざわざ日帰り温泉に行くということは、自分たちのお湯に満足しなかったのではないだろうか、と心配になったのだな」と察したので、心から楽しめた事実をそのまま伝えるというより、女将を安心させなくてはという使命感のような気持ちでやや大げさに感想を伝える形となりました。

私自身、私的な場面であっても、友人が「〇〇〇がない」「〇〇〇が困った」と、ただつぶやいただけにもかかわらず、プライベートガイドの習性で、何とかしなくちゃ!解決しなくちゃ!というセンサーが瞬時に作動してしまい、「何かしてもらおうと思っている訳じゃないのに」と大笑いされるくらいなので、女将の気持ちは痛いほどわかります。

ですので、これは自戒を込めてなのですが、、たとえお客様のひとことで何か不安になったとしても、お客様に他意はないことも多いと思うので、特に、マイナスな気持ちから来る言葉はすぐに発するのではなく、一拍置くことがとても大事なのではと思います。

今回のケースですと、一拍の「間」があっただけで、私からのお礼の言葉を聞けた後、お宿のお湯についての感想を、日帰り温泉とはまったく関係なく、もっとフラットに聞けたと思うのです。


今日のひとこと

そして、もしお客様が外国人だったとしたら、最後に以下のような表現でお別れすると自然でしょう。

I hope you have a great time there!
どうぞそちらで素敵な時間をお過ごしくださいね。

Enjoy your time there and take care!
そちらでの時間を楽しんでくださいね。お気をつけて。

Have a good time and safe travels!
楽しい時間をお過ごしください。安全なご旅行を。

※”safe travels”は、旅全般への安全や快適さを願うフレーズです。
今回、お宿から日帰り温泉施設へ、その後、自宅までの帰路を気遣う表現として適しています。
また、日本国内で複数地域に滞在予定であったり、帰国前の外国人に対しても使える便利な表現です。

外国人を接客・接遇する場面では、言外の言葉を汲み取りやすい日本人のお客様の時以上に、お相手をよく観察して(もちろんジロジロと見るという意味ではなく)、焦らずに「間」を楽しむ心の余裕を持ちたいものです。


今日のひとこと

また、会話の途中、充分な「間」を取った後、以下のようなフレーズを使うと、お客様のお話をしっかり受け止めていることが伝わり、より深い会話を引き出すきっかけになるのではないでしょうか。 お客様に安心感や信頼感を与えることもできるでしょう。

I see what you mean.
おっしゃることがわかります。

That’s an interesting point.
それは興味深いですね。

I’m glad to hear that.
それを聞いて嬉しいです。

Can you tell me more about that?
それについてもう少し教えていただけますか?

It makes sense.
納得です。

Thank you for sharing that.
教えていただいてありがとうございます。

That’s great to know.
それを知れてよかったです。

お宿のお部屋にて。お椀の中に年始らしく可愛い鶴亀がいました。

外国人とお話しするときにも「間」を考えるとよいのでは、とお伝えしたものの、会話に消極的になり、何も話せなくなってしまっては元も子もありません。

私たちが母国語ではない英語(もしくは他の外国語)を用いて一生懸命、お相手のことを考えて発した言葉の真意は、その気持ちも含めて、たとえ完璧ではなくても伝わるに違いありません。

まずは臆せず話しかけてみて、会話にも少し慣れてきたかなと感じたときに、次のステップとして、「間」なども気にかけてみてはいかがでしょうか。

記事執筆者
田口 倫子(たぐち のりこ)

全国通訳案内士(英語)
観光庁「地域の観光人材のインバウンド対応能力強化研修」1級講師
観光庁「世界水準のDMO形成促進事業」外部専門人材
元JAL国際線キャビンアテンダント

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