インバウンドガイド日記 vol.07『なんで??~背景を考える習慣~』

インバウンドガイド日記 vol.07『なんで??~背景を考える習慣~』

2025年01月15日 8時00分

年々増加傾向にあるインバウンド観光客。
皆さんも街中で訪日外国人を見かける機会はありませんか?

日本人同士の気持ちはわかるけれど、世界各国の人の常識や思いを理解することはなかなか難しいですよね。
そこで、日々インバウンドとともに日本を旅する’全国通訳案内士’が実際にあった体験をもとにお話しします。

今回の「背景を考える習慣」というテーマ、通訳案内士の皆様には深く頷いていただける内容かと思います。笑

外国人のプライベートガイドをするようになって、日本人の多くは(少なくとも私は)、世の中の事象をそのまま素直に受け入れがちで、深く疑問に思ったりしない習性があるなと気づきました。

どういうことかといいますと、外国人をご案内していると、終日、「素朴だけれども、今まで考えたこともないような疑問」を投げかけられまくるのです。

まさに、NHK総合テレビの「チコちゃんに叱られる!」状態です。
お客様から、 ”Why?(なんで?)” 攻撃を受けまくります。

日本の事象などをお話しする際、5W1Hのうち、「いつ」「どこで」「だれが」「なにを」「どのように」を用いたご説明だけではダメなのです

なぜ(Why)」がとても大事になってきます。

プライベートガイドをする前の自分自身を振り返ってみると、海外で現地のガイドさんに案内していただいた時、おとなしく説明に聞き入ったり、ガイドさんと世間話を楽しんだりはしたものの、「なんで?」「どうして?」と、突っ込んで聞いた記憶はありません。

一方、訪日外国人のお客様は、私たち通訳案内士のことを「日本について何でも知っている『日本博士』」だと思っていらして、日本に関して疑問に思うことはこの人からすべて教えてもらいたい!と、能動的に接していらっしゃるのです

そして、”Why?” だけでなく、ご自身の五感で感じたこともすぐさま率直に尋ねていらっしゃいます。

頭上で鳴いている鳥の種類や、目に入った樹木や花の名前、鳥居や建物で使われている木材などについて聞かれるのはいつものことです。

プライベートガイドとして活動したての頃は、今まで気にも留めていなかった存在に(英語どころか日本語でも)答えられず相当へこみました。

どうしたものかと思いましたが、結局近道はなくて、ひとつひとつ着実に知識をつけていくしかないのだと覚悟しました。

上手に答えられなかった分野の書籍を購入して学んだり、勉強会に参加したり、ネットで調べたり、、決して新人の時だけでなく、今も続けています。

「日本」に関する新旧の知識は限りないので、通訳案内士として働いている同僚の皆様は、何十年選手のベテランの先輩方も、本当に熱心に学び続けていらっしゃいます。

近くで拝見していると、そういった学びを苦痛と思わず、楽しんでいる方が多いように思います。

私も今ではそれなりに経験を積んだので、日常生活を送る中でも、常に「これはなぜ〇〇〇なんだろう??」というように、(まるで外国人のお客様が自分に憑依したように)あらゆる事象の「背景(理由・原因・歴史)」を考える習慣がつき、多くの事柄に関して、より深くお伝えできるようになりました。

まさに「ボーっと生きてんじゃねーよ!」な状態だった私ですが、お客様のおかげで、自分が住んでいる国のこと、お客様の国との比較、世界情勢など、世の中の事象を深く考える習慣を身に着け、物事を多面的に楽しむことができるようになりました。

お仕事を通してそのような変化を遂げることができ、本当に心から感謝しています。


今日のひとこと

そして、これは通訳案内士に限ったことではなく、接客や接遇で外国人の方に何かをお伝えしたいときは、事実だけをお話しするのではなく、簡単にでも、その「背景」をお伝えするように意識されると、相手の方により深く理解していただきやすいように思うのです。
個々の具体的な内容をお話しする前後に、以下のような言葉を添えると伝わりやすいでしょう。

That’s because it’s part of our tradition.
それは私たちの伝統の一部だからです。(伝統に基づくことを伝えたいとき)

That’s because it’s connected to our history.
それは私たちの歴史と関係があるからです。(歴史的背景を伝えたいとき)

Because it’s a way to show respect.
それは敬意を表す方法だからです。(礼儀や文化的価値観を伝えたいとき)

これらのフレーズを使ってみて、さらに「なぜ伝統の一部なのか」、「なぜ歴史と関係があるのか」、「なぜ敬意を表す方法なのか」が気になり、説明したくなってしまったあなたは、すでに私たち通訳案内士の世界の沼にハマりかけています!笑

記事執筆者
田口 倫子(たぐち のりこ)

全国通訳案内士(英語)
観光庁「地域の観光人材のインバウンド対応能力強化研修」1級講師
観光庁「世界水準のDMO形成促進事業」外部専門人材
元JAL国際線キャビンアテンダント

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