インバウンドガイド日記 vol.06『餅(もち)~何味が好きですか?~』
2025年01月08日 8時00分
年々増加傾向にあるインバウンド観光客。
皆さんも街中で訪日外国人を見かける機会はありませんか?
日本人同士の気持ちはわかるけれど、世界各国の人の常識や思いを理解することはなかなか難しいですよね。
そこで、日々インバウンドとともに日本を旅する’全国通訳案内士’が実際にあった体験をもとにお話しします。
お正月が明けて早1週間、皆様いかがお過ごしでしょうか。
年末年始と休暇でいらした皆様はごゆっくりできましたか??
年明けの通常営業日が月曜に始まったので、今週は少しキツく感じられるかもしれませんね。
年末年始も変わらず働いたし、何ならいつもより忙しかったよ、という皆様は、大変お疲れ様でした!
この後、ゆっくりとお休みがとれますように。。
通訳案内士の業界では、インバウンド活況の折、以前ほど差がなくなっているとはいえ、冬は基本的にいわゆる「閑散期」とみなされています。
ですので、皆それぞれ異なる年末年始を過ごされたことと思います。
真夏のような暑さで、体力的にも大変だった昨秋の繁忙期を終え、1年で最も忙しい桜の季節に向けて英気を養うため、ゆっくりのんびりされた方も多いことでしょう。
また、この時期、多くの外国人のお客様が、素晴らしいパウダースノーを求めて日本のスキーリゾートにいらっしゃるので、その地域でガイドをする皆様はお忙しかったに違いありません。
そして、2,3週間、同じお客様に帯同して日本各地を周遊し、ご一緒に新年を迎えた方もいらっしゃるでしょう。
私のように都内や東京近郊を活動の拠点とするプライベートガイドは、ホリデーシーズンをスキーリゾートでたっぷりと楽しんだ前後で東京に立ち寄られるお客様をご案内することが多いように思います。
私も新年6日に無事「ガイド初め」をさせていただきました!
さて、このお正月、何かお正月らしいものを召し上がりましたか? お正月らしい食べ物といえば、私はおせち料理のほか、鏡餅やお雑煮で使う「もち」が頭に浮かびます。
今日のひとこと
日本人にとって「もち」は特別な食べ物ですよね。外国人に説明したいときは、まず次のように言えるでしょう。
Mochi is a symbol of celebration in Japan, often eaten during the New Year.
「もち」は日本ではお祝いの象徴で、お正月によく食べられます。
そして、なぜ「もち」がお祝いの象徴で、お正月に食べられるのかは諸説あるようです。
少し込み入った内容になりますが、なるべくシンプルな英単語を使いつつ、以下のように表現できるでしょう。
In Japan, eating mochi during the New Year comes from an ancient court tradition called “Hagatame no Gi,” a ceremony where people prayed for strong teeth, health, and long life.
日本では、お正月にもちを食べる習慣は「歯固めの儀」と呼ばれる宮中の伝統行事に由来しています。この儀式では、丈夫な歯と健康、長寿を祈りました。
Mochi was originally a sacred food offered to deities on special occasions.
もちはもともと特別な日に神々に捧げる神聖な食べ物でした。
Because mochi stretches without breaking, it symbolizes long life.
餅が切れずに伸びることから、長寿の象徴とされています。
People eat mochi offered to the New Year deity to pray for a healthy and peaceful year.
年神様に供えられた餅を食べることで、健康で平穏な一年を祈るのです。
ところで、「もち」というと、お正月の鏡餅やお雑煮のほかにも、下の画像のような磯辺焼き、そして、きなこや砂糖醤油でまぶしたものを想像しませんか?
浅草の仲見世通りや築地場外市場などに行くと、多くのお客様から、
”Mochi! Mochi! I love Mochi!” と満面の笑顔で言われたりします。
プライベートガイドとして活動したての頃、「冬でもないのに、おもちなんて売ってる??」などと思いながら、お客様の視線の先を見ると、大抵、カラフルな(多くはいちごを乗せた)「大福」が売られていました。
最初の頃は、
「え!?それはおもちじゃないですよ、大福と言いまして、、」と、
私たち日本人の言う「もち」と「大福」の違いをご説明したりしました。
しかし、ニコニコと聞いてくださるものの、あまり響いていないご様子。
あまりにも多くのお客様が、”Mochi! Mochi!” と、嬉しそうにおっしゃるので、お客様にお話を伺ったり、自分で調べたりして、どうやら多くの外国人の方にとって、「大福」こそが「もち(Mochi)」であって、
さらにいうと「(あんこではなく)アイスクリームが中に入った大福」こそが「もち(Mochi)」であることがわかりました。
1980年代初頭、ロサンゼルスで、日系人の奥様と彼女の旦那様が「三河屋」という名のベーカリー・ビジネスを経営。
日本で食べた「あんこの入った丸い米粉のもち」を忘れられなかった旦那様が、10年にわたる研究とテストの末、あんこをアイスに変えて販売したところ、人気商品となったようです。
奥様の死後、売却されたようですが、My/Mochi というブランドで現在、全国20,000店舗で販売。
2019年の同ブランドの小売売上高は1億7,500万ドル(約262億5,000万円/1ドル150円で計算)というのですから、「もち=アイスクリームが入った大福」だと、多くの外国人の方が信じて疑わなくても納得ですよね。
(2019年12月9日 CNN Businessサイトより)
今日のひとこと
なお、互いの意味の違いに興味を示されそうなお客様には、以下のようにお伝えしてもいいでしょう。
In Japan, ‘mochi’ traditionally refers to rice cakes, but many visitors think of mochi ice cream. Both are delicious!
日本で “mochi” は伝統的に「もち」のことを指しますが、多くの訪日外国人は「もちアイス」を思い浮かべます。どちらもおいしいです!
日本人の言う「もち」こそが正統派だと主張するのではなく、どの ”mochi” もおいしいということを表現したいところです。(少なくとも私は本当にそう思っています)
何よりお客様がハッピーなことが一番ですよね!
逆を言えば、今や我が国の国民食であるラーメンやカレーライスも、もとは中国やインドで生まれて、日本で独自の進化を遂げたメニューですからね!
記事執筆者
田口 倫子(たぐち のりこ)
全国通訳案内士(英語)
観光庁「地域の観光人材のインバウンド対応能力強化研修」1級講師
観光庁「世界水準のDMO形成促進事業」外部専門人材
元JAL国際線キャビンアテンダント